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日記です。

書籍と雑誌の発売日 その2

前回は雑誌の発売日について書いた。ポイントは、「雑誌の発売日は決められている」、「発売日に合わせて取次搬入日などの予定が全て決められている」、「取次搬入日の中1営業日後が雑誌の発売日」ということ。あくまで、取次を経由して書店で発売している雑誌、つまり雑誌コードを与えられている雑誌の話。

今回は書籍の発売日について。もうちょっと正確に言うと取次を経由して書店で発売されるISBNコードの付いている書籍の取次搬入日と発売日について。

雑誌を出している出版社より書籍しか出していない出版社のほうが数は多い(正確な数は把握していないが)。雑誌を出している出版社が比較的頭数がいるのに対して書籍オンリーの出版社だとひとりというところも少なくない。そして、出版社の大小問わず取次を経由して書店で販売される「書籍」の進行はほぼ同じだ(超大手はちょっと違うみたいな話を聞いたことがあるが、違いは多分窓口に直接行かない程度の話ではないかと思う)。

出版社の営業職でかつ取次担当の人間は新刊書籍の取次搬入日の中3営業日前の午前中に取次の仕入窓口に見本を持っていく。数年前までずっと中2営業日前の午前中だったのだが「業量(一日の搬入量)が増え過ぎた」ということで中3営業日にしてくれと言われ、それ以降は中3営業日前に行くようになった。というか考えてみるとウチの社の場合は混んでる窓口を避けるために以前から中3営業日前の午後に行ったりしていた。午後だと窓口は空いている。

窓口に行くのは部数を決めるためではなく、希望部数を伝えるため。雑誌の場合は窓口で交渉して部数を決めるのに対し、書籍はその場で部数は決めない。見本と伝票(無料献本の場合は伝票無し=無伝も可)と事前注文の短冊かリスト(最近はメールで送ることも。ハイテク時代)を渡し搬入日と希望部数を伝える。

希望部数と言ってもあまり非常識な数、例えば「この本はいきなりミリオン狙ってるんで搬入部数は50万部でお願いします」とかだと窓口で揉めるかも知れないが、ほとんどの出版社は過去の類似書籍の搬入部数か事前注文の部数プラスアルファのはずなのであまり揉めることはない、と思うけど、なんだか窓口で色々揉めてたりということはあったりするのでその辺は色々あったりもする。自社パターンでの配本などの場合はまたちょっと違うこともある。

通常は新刊委託のはずなので条件については何も言わなくてもいいが、注文扱いのみの場合などはその旨を伝える。逆に取次の担当者から「製本所はどこですか?」と聞かれることがあるが、その場合は印刷会社を伝えればいい。取次担当者が定規で本のサイズを測ったりすることもある。「部数の確認は○日になります」などと取次の担当者から告げられる(もしくはこちらから「部数の確認は○日ですか?」などと確認する)。で、判子を押してもらった伝票の受領書を受け取る(受領書は先に返してくれるヒトの方が多いかな)。

(カバー進行やゲラ進行のことについて書こうかと思ったがイレギュラーな話は混乱を招きそうなのでやめておく)

以上で大体終了。雑誌の窓口交渉と違って書籍のは(「この本のよさがわからんのですか」などと暴れない限り)あっさりとしている。

続いて、中3営業日前に取次に行った場合はその翌々営業日後、中2営業日前の見本進行の場合は翌日、要は取次搬入日の中1営業日前の11時ぐらいまでに取次の仕入窓口(担当者じゃなくても大丈夫)に電話し、取次搬入部数を確認する。この作業は「部数確認」や部決(部数決定)と呼ばれているけど正確な名前はなんて言うんだろうか。

ここで初めて部数が決まるのだが、ここで決まった部数には交渉の余地はない。つまり、希望部数をドカンと減らされることもあるし、逆にちょこっと上乗せされることもある。大量に上乗せされるということもないわけではないらしいが、その場合は見本進行後に取次から連絡があるはず。先方としても上乗せしたところで「出せない」と言われると困るわけで、そういう意味では見本進行の際の希望部数は委託で出せる最大限の部数と考えてもいいのかもしれない。

(すごく売れることが見えているような本の場合は通常の見本進行より前に取次の仕入窓口に相談に行くといい。例えば常にベストセラーを連発していてかつテレビでもがんがん露出しているような著者の新作とか。仕入窓口で相談すると特販(営業部隊)を紹介してくれたりもするし、場合によっては全社を挙げて応援してくれたりもする。取次が動かないとミリオンは生まれない(などと偉そうに書いているがオレ自身はミリオンの経験はないので正直よくわからない)。)

で、決まった部数で伝票を起こし、印刷会社に渡す。印刷会社はその伝票を書籍に添え、取次搬入日の午前中に新刊搬入口へと納品する。

この午前中というのがなかなか大変で、取次の搬入口へと通じる道路が渋滞して間に合わないとか使った運送業者が取次搬入に不慣れで道に迷って間に合わないとかそんなことがあったりする。で、午前中に物が入らないとすぐに取次から電話がかかってくる。電話を受けたらすぐに印刷会社に連絡して確認する。

新刊を土曜に搬入することもできる(できた? 最近やってないからわからない)はずだが、その場合は搬入関係のことがわかっている誰かひとりが必ず休日出勤して無事搬入が終わるまで社で待機していなければいけない。休日出勤したくないので土曜搬入はやっていない(ウチの会社は)。

ここまで発売日の話は一切出てこないが、実はこの後も進行の流れとして発売日の話はまったく出てこない。書籍の進行において「発売日」の話は出てこないのだ。

そう、協定品などと呼ばれる一部の書籍や文庫・新書など発売日が決まっているものを除くとほとんどの書籍の発売日は決まっていない。なので、「取次に入れた日が発売日だ」と言うヒトは少なくない。これを「搬入発売」などと呼ぶ。

取次に搬入された新刊はすぐに全国各地各店舗向けに仕分けられる。都内の超大型店にはその日の午後便で届く(はず)。その他のお店・地域にも順次届けられる。昔は「多摩川を越えると日付が変わる」などと言われてたと思うが真偽のほどは定かではない。

「取次搬入日」に店に品物が届いている書店はそんなに多くない。書店にしてみるとモノがないのに発売もへったくれもないだろうという話だが、にもかかわらず取次搬入日=発売日と言っている出版社(しかも大手含む)は沢山ある(書店発売日とは言っていない、という論理かもしれない)。

で、書店の店頭では「出版社に聞いたら今日発売って言ってたよ」などとお客さんにつっこまれてしまったりする(自分も昔、書店でバイトしてた時によくお叱りをいただきました)。著者が自分のブログとかで「○月×日発売です!」っていうのも最近は増えた。で、その日にお店に行ったファンが「まだ並んでませんでした」とかツイートしたりする。本当なら「もう並んでましたよ」ってツイートしてもらいたい。

出版社の大小や著者の有名無名に関わらず、出版される本や雑誌には多かれ少なかれ「待望しているお客さん」がいる。そういうお客さんからしてみると「出版社が発売日って言ってるのに店に入ってないなんて、なんてだらしのない書店なんだ」ってことになってしまうのではないか。

最近はPOSレジを導入している書店が増えたので、未刊の書籍でも検索できたりする。だから、昔のようにお客さんが言っている本が本当に存在するのかしないのかすら分からない状況に比べれば改善されてはいる。けれど、端末叩いて書名がわかったところで入荷するかしないかまでわかるわけではない。入荷予定がわかる端末も増えてきているらしい。それはそれで素晴らしいことだと思うが、明日来る荷物が分かって「当店には明日入荷予定です」とお客さんに伝えたところで「ははーん、この店は発売日までにものが入ってこないショボい店なのね」と思われてしまう可能性は拭えない。

とはいえ、待望のお客さんがあまりいない=飛ぶように売れるわけではない書籍を出している多くの出版社にとっては上のような例はあまり身近な例えではない。なので、いまだに「搬入発売」はなくならない。大手でも搬入発売は多いがその理由はオレには分からない。今となってみると告知の問題も含めてメリットなんてほとんど無いと思うんだけどなあ。単に習慣なのかも知れないし、逆に発売日を明言してしまうと地方などで入荷が遅くなってしまう書店さんにご迷惑をおかけしてしまうという気遣いなのかも知れない。

というのが、発売日が決まっていない書籍の発売日(と取次搬入日)に関する現状。

書籍の発売日に関する話はこれでほとんど。

発売日が決まってる本は決まってるというだけの話。まあでも決まってる本も大変らしく、ハリーポッターのときは店に並ぶ日付(と時刻)だけでなく、アマゾンやブックサービスがお客さんに配送する場合も同じ日に届くようにするために大騒ぎだったそうだ。

ということで、今回はここまで。

次回は蛇足で、じゃ、どうしようって話。あくまでボク個人の意見になります。

↑と思っていたけど、「出版社はなんで発売日決められないの?」「一体どの時点なら発売日(もしくは搬入日)が決められるの?」というお話を挟むことに。近いうちに。