仕事と晩飯とその他

日記です。

書籍と雑誌の発売日 その3

前々回は一般的な雑誌(月刊誌を中心に)の発売日について、前回は一般的な書籍(文庫・新書ではない単行本及び「協定品」ではない本)の発売日について書いた。雑誌の発売日は決められており(取次搬入日の中1営業日後)、スケジュールは発売日から逆算して決まっていく。それに対して書籍の発売日は決まっていない(そもそも流通の過程で出版社と取次の間で発売日(書店発売日)が話題になることもない)。

今回は、なぜ書籍の発売日は決まっていないのか、もしくは、なぜ書籍の発売日は決められないと出版社は言うのか、について書くつもりだったが、よくよく考えてみると結論はひとつなのでその話を書く。

その前にまず、書籍をめぐるいくつかの日付についてもう一度確認しておきたい。

ひとつは「取次搬入日」、表にはあまり出てこないが、出版社の営業、特に取次の物流を担当としてる人間には書籍の発売に関連して一番身近な日付だ。取次搬入日を発売とする「搬入発売」については「店着(てんちゃく)した荷物をなぜ売ってはいけないのか」という書店側の声からそうなった」という話をツイッターで見かけた。なるほど、ではその前はどうしていたのだろう、そのあたりが気になる。

もうひとつは「奥付発行日」、大抵の本には奥付があり、そこに発行日が書かれている。多くの人が目にする日付だが、この日付は発売日でも取次搬入日でもない。取次搬入の2週間後ぐらいを目安にしたキリのいい日付が記載されているに過ぎない。戦時中に出版流通が国家管理化に置かれた際に様々なルールが適用されたうちのひとつで、配給制だった当時は意味があったもののようだ。今は実はほとんど意味を持っていない。蛇足だが、「奥付発行日より前には返品できない」という、多分、都市伝説的な話がある。というかオレは聞いたことがある。それを以前の会社である編集者に告げたところ、「それならすごい未来の日付にしたらそれまで返品できないってことじゃね?」と言われた。そのまま取次の担当者に伝えたら、ちょっと勘弁してくれ、という感じであきれられた、というなんともいえない思い出がある。

最後に「書店発売日」、これについては既に触れた通りまったく定まっていないし、出版社の社内でも話題になることは少ない。この日付を出版社で一番気にしているのは広告宣伝担当者で、次が書店営業担当者だと思うが、その二社の間でも温度差はかなりある。

さて、では、どうして最後に挙げられた「書店発売日」は決められないのだろうか。雑誌のように発売日から逆算して予定を立てることは不可能なのだろうか。

結論から先に書く。書店発売日が決められない、もしくは書店発売日を決めてそこから逆算して予定を立てられない最大の理由は、「今までそうではなかったから」に尽きる。それ以上のものはあまりない。

こう書くと「そんなことはない、著者の原稿執筆が遅れる場合もあるし、編集・校閲等で大きく時間がとられる場合もある。おまえは編集者じゃないからわかっていないんだ」といった声がすぐに出てくるはずだが、それに対しては「『ハリー・ポッター』は深夜にカウントダウンして発売ができたじゃないですか」と返したい。「ああいうのは特別だ」と言われるかもしれないが、世の中には『ハリー・ポッター』以外にも発売協定品は多々あり、それこそ文庫や新書やコミックは発売日に粛々と発売されているじゃないですか。「翻訳も文庫もコミックも元があるじゃないか、初めて内容を世に問う単行本とは違う」という意見もあるとは思うが、書き下ろしの文庫も増えているし新書の多くは初めて世に問われる内容だ。「期限なんて決めたらいいものは作れない」、いやいや、期限決めてなくたって回収騒ぎとかあったりするじゃないですか。「そもそも書籍は出た時が発売なんだ、今までずっとそうやって来た」、いや、だからそろそろ変えませんか。

発売日から逆算して予定を立てている書籍がこの世に一切存在しないならともかく、実際に存在しているわけで、では、なぜそうではない多くの書籍は発売日を決められないのかと言うと、まったくもって「今までそういう風にやっていないから」に過ぎない。

話がちょっとややこしくなるが、「ゴール(書店発売日)を決めて予定を立てることができない」という問題と、「(広告等で外に出す)書店発売日を(取次搬入日から見て)いつにするか」という問題、「発売前に(出版社が)書誌情報を公開する・しない」という問題と「発売前に(出版社が)事前予約を取る・取らない」という問題、「書店からの事前指定を(出版社が)配本に反映させる・させない」等々の問題は、それぞれ関連性がないわけではないが、よくよく考えるとまったく別の問題になる。書店発売日の話が複雑になりがちなのはこれらの問題をごちゃごちゃに扱ってしまうからで、面倒ではあるがこれらの問題をゆっくりと紐解きながら解決していくしか道はない。そして、これも意外な話なのだが、今ここで挙げた別々の課題を解決していくための方策はほとんど出版社だけで実施可能なものであり、取次や書店がどうこうという話はまったく関係ない。仕組みの問題ではなく、習慣の問題でしかないのだ。

すっかり大きな話になってしまった感もあるが、今回はここまで。次回は上記の問題(ここでは5つ挙げた)についてもう少し具体的に考えてみたい。