仕事と晩飯とその他

日記です。

相田さん、ありがとうございました。

みすず書房元取締役営業部長の相田良雄さんの訃報をネットで知った。

書店のアルバイトから出版社の正社員になって数ヶ月、まだ右も左もよくわかっていなかった頃に行った出版ビジネススクールの講師が相田さんだった。具体的な数字の入った資料を前にスリップを用いた単品管理のエッセンスが語られる。正直、何を言っているのかよくわからない。結局、1/3も理解できなかった。なのに、なんだかとても興奮した。何かができそうだ。それは何だ?

テキストの『出版販売を読む』を、すぐに読み返した。わからなかった。わからないなりに、まずできることはなんだろうと考えた。自分の手元にどんな数字があるのかを知ることから始めよう。

出版社では納品から返品を引いた数字を「売上」として把握することが少なくない。それだと返品率がわからない。大きく捉えていた数字を細かく追えるか。細かい数字を大きな視点で見直せるか。手元に無い数字は何か。数値を集める方法。集めた数字は知りたい何かのために充分なものか、不要なものまで余計な手間をかけて集めていないか。

スリップではなくPOSデータが気軽に使える時代が始まったというのになかなかその波に乗れないことに苛立っていた。もっといいデータがそこにはあるじゃないか。しかし、実際にデータを使えるようになるとそれをまったく使いこなせないことに落胆した。Pの集まりでS社の話を聞いた。そうか、今までのデータと同様、いや、それ以上にいろんなことに使えるじゃないか。ずっともやもやし続けていた何かがようやく開けてきた気がした。

数年経ってパネラーとして参加したイベントが終わってから、同じくパネラーとして参加した亡き田中達治さんに「おまえんトコは刊行点数が少ないからそうやって色々できるんだ」と褒められた。
「ええ、相田さんの本読んで色々勉強しました」
「オレも相田さんの本読んで勉強したよ」

嬉しかった。

『出版販売を読む』は何度も貸し出して、結局2回買ったのに今は手元にない。貸し出した人間の中にはこの本で変わった人間もいればそうでないのもいる。スリップ時代の話だ、そのままだとやはりわかりにくいのかも知れない。

表面的なテクニックはいくらでも真似できる。でも、何のためにそれをするのかを考えなければ、新しいことも、そしてもちろん古いことも、吸収できない。

相田さん、ありがとうございました。