仕事と晩飯とその他

日記です。

装丁とアマゾンと電子書籍

「本はもうアマゾンでしか買わないよ(持って帰るの重いし探すの大変だから)」と言いながら「装丁は大事。本は装丁で売れる」と平気で言う編集者の弁を伺うとなんだか不思議な気持ちになる。アマゾンで装丁や造本の何がわかるのか。おっしゃっている装丁というのは表一の見た目とバランスだけなのだろうか。

LPがCDに変わる頃、「音質のこととか考えたら絶対レコード、っつうかLPだよね、LP。あの迫力のジャケット。ジャケットはアートだよ。大事なこと。皆ジャケットで買うよ。あんな小さいサイズじゃモノとしての満足感はまったく満たされないし、アートとしてのジャケットの素晴らしさは伝わらないね」と言いながら「家に置き場所ないからもっぱら買うのはCD。コンパクトディスクってぐらいでさ、コンパクトでいいよね。ああ、でも、本当に聞きたいアルバムはもちろんLP。CDじゃ本物のよさはわからないよね」みたいなことを言っていた音楽関係者はいたのだろうか。

きっといたんだろうな。

自作の短歌や俳句を手作りで美麗な本に仕上げてくれる出版社というのがあって、それはそれで工芸品的な本の行き着く先としてはひとつの答だろう。

でもさあ、そりゃ作る側は美麗な本作りに大満足だろうけど、中身読む気にならない本をわざわざ金出して買おうって気になるヒトはどれぐらいいるもんなんでしょうか。

装丁が売上を左右する可能性があることは否定しないし、そこに付加価値を見出すこともひとつの方向性であるということはよくわかる。わかったうえで、それでもあえて「本は中身で買うでしょ」ということを言いたい。

「装丁が、造本が、文字組みが、フォントが……、」とか、そういうところにこだわりがあるヒトが少なくないこともよくわかっている。特に作る側に。ただ、そのこだわりが作る側の自己満足に陥っていないかどうかはよくよく考えてみる必要がある。

「オンラインでは一部(表面の画像)しかわからなくても、実際に手元に届いた時に品質の良し悪しは確実にわかる。それが、次につながる」

なるほど、それはあるかも知れませんね。でも、それならなおのこと、中身の満足感のほうが重要じゃないですか?

いい本の表紙がいい装丁になる。思い入れのある本の装丁はいい装丁だ。

本を作る側の人々は本が好きで好きでたまらないかも知れないが、本を読む側・使う側にとって一番重要なのは中身であることは間違いない。中身の満足度が高ければ次につながる。

見た目だけ格好良くったってダメだ。

今回のジョブズ本の装丁話にはちょっと呆れた。Apple信者っていうのは本の良し悪しを見た目で決めるの?

「見た目だけで決めてるのではなく中身を前提として見た目も重要だと言ってるのだ。それすらわからない奴がどうこう言うな」

とか言われそうだけど、じゃで、電子書籍ってどうなるの? 形ないよね、電子書籍電子書籍の装丁って何? じゃあ、ジョブズ本を電子書籍で買ったヒトは装丁に価値を見出していないクズ野郎なの?

多分そこでも「フォントが」とか「アプリケーションとしてのアフォーダンスが」「ユーザー・インターフェースのエクスペリエンスが」とかって言われるんだろうなあ。

側が高級だからといって中身が高尚であるとは限らないよね(ジョブズ本のことではなく一般論として)。

年をとってから、餓鬼の頃に意味無く憧れた洋楽POPSの歌詞をふと読んで、その薄っぺらさに驚いたことがある。

スマートフォンの性能は格段に向上した。スーパーコンピューター並みのマシンが手のひらの上で動いている時代。

その高性能で皆は何するの?

ソーシャル・ゲーム?

可能性は無限大だなあ。

(側が新しいからって中身が新しいわけではないよね)

紙としての本の装丁も造本も悪いよりは良いに越したことはない。電子書籍のビューワーの性能もいいほうがいい。フォントも読みやすいものであって欲しい。

それはもちろんそう思いますよ。

でもですね、ご自身が買う側・読む側・使う側になった時に、見た目だけで選んでいるわけではないですよね。

ここまで考えてふと気がついた。

作る側が中身に差がないと考えていたら側で何とかしようとか思うよね。そうだよね。

そういうことなのかなあ。もしかしたら、そういうことなのかなあ。

それだとけっこうやるせないね。うん、やるせないよ。

ああ、もしかすると、「営業が!」みたいなこと言う編集者も心の奥底では中身に自信が無いのか。無いから営業力とやらで差がつくと思ってんのか。もしくは差がついたのは営業力だと思おうとしているのか。

そっちか。なるほど。

でも、そっちだとするとその先は絶望だな。絶望しかない。

うーん、鬱になってバーストしてしまったりっていう編集者って少なくないけど、そういうことなのかなあ。

なんかそういうことなら営業がもうちょっと頑張らないと申し訳ないような気もしてきた。

そうだな、側とか営業力とかでもっともっと盛り上げないと。そういうことなら。

厳しいのはオレだったのか……。

なるほどなあ……。

なんかほろ苦い。