仕事と晩飯とその他

日記です。

二人の上司 その1

昔の上司の夢を見た。

オレがひきこもりにならなかった理由は家を出たくてたまらなかったこととそれ以前の問題としてひきこもってなんとかなるほど実家が裕福ではなかったことだろう。

フリーターにならなかったのはバイト先の昔の上司とその上司が紹介してくれた会社の上司、この二人の上司のおかげだ。

あのままバイトで生活を続けていたらどうなっていたのだろうか。バイトでも残業すれば社員より稼げるぜなどと強がってはいたがあらゆる面においてバイトと社員では待遇が違った。本屋の社員の待遇がよいのではない。本屋のバイトの待遇がさらに悪いだけだ。

仕事が面白くないわけではなかった。オレより年上のバイトもいたからなんとなく安心していたというのもある。20台ももう後半だったがまだまだ若いという気持ちがなかったわけでもない。

が、しかし、本当は、大学を二つも中退したうえに専門の知識も技能も有力なコネも持っていない身でまともな就職ができるはずはなかった。

真夏だった。

「おまえ、出版社の営業の仕事どうだ?」
出版社の編集にはまったく興味がなかったが営業の仕事なら自分にもできそうな気がした。今の状態が永遠に続いてしまうことの不安に比べれば新しいことに向かう不安はほとんどなかった。

紹介してもらった出版社の営業部長は物凄くダンディに見えた。今まで出会った営業の人たちとちょっと違う。こんな人たちばっかの会社で働くのか。

スーツを持っていなかったオレは洋服の青山で面接用のスーツを買った。面接の前の夜になってネクタイを買うのを忘れていたことに気がついた。近所に住んでいた大学の友人に電話してネクタイを貸してくれるよう頼んだ。いつもお洒落だった友人はネクタイを何本か並べた。そのうち一本を借りた。
「必ず返すから」
「いいよ。ヒトにモノを貸す時はあげるつもりでいろって子どもの頃から母親に言われてるんだ」
育ちのいい奴ってのは本当にいる。

間違えた。伊佐治にネクタイをもらったのは本屋のバイトの面接の時だ。

出版社の面接の時は炎天下に冬用のスーツを着て九段の坂を歩いたんだった。

オフィス、その後にあちこちで見かけた出版社の雑然とした社内という感じではなく、まさにオフィスという感じの小奇麗な社内で先日のダンディな営業部長の面接を受けた。細かい話は覚えていない。(この項続く)