仕事と晩飯とその他

日記です。

出版が志ならば、この思いを形にしたい。

夜、例の事件がらみの出版企画、当事者である知人(K氏)の兄と初顔合わせ。事件自体は今後の日本の高齢化を考えると他人事ではない。

因習的な地方の中で多勢に飲み込まれかかる次女、東京から地方のもどかしさに憤りながら必死で関わる次男、ニューヨークから帰郷し、行政・司法という日本そのものの矛盾に激しく挑みかかる長男。揉み消しや恫喝といった裏工作の無意味さだけでなく、地方、さらには日本の行政・司法の無作為が、地方・東京・ニューヨークという三つの視点によって明確に炙り出される。そこにあふれているのは欺瞞と怠慢・恫喝と懐柔。利害に関わる人間達によって白は黒に変わり黒は白に変わる。施行されたはずの法律の存在は無為の中で忘れ去られ、社会正義を担うはずの者達ですらバッジの権威に寄りかかり目の前の現実を忌避しようとする。K氏兄弟の憤りは時に笑いにすら変化する。それほど馬鹿馬鹿しい現実を彼らは目の当たりにしている。

もう一つ、この事件で自分が心をえぐられるような事がある。被害者であるK氏の父親は戦前生まれのそこそこ名のある絵描きだ。一人で生きていくということに自信も技量も持ち合わせた誇り高き年寄りなのだ。介護ヘルパーによる犯罪に直面しても、教師であった彼は人を疑わず、自分を疑っていく。自分への疑いがやがて「ボケ」への不安に変わっていく自筆の日記には心を打たれる。こんなことが許されてはいけない。そしてこんなことが起こったのはけして犯罪を犯した加害者だけの問題ではない。利権と体裁が一人歩きしていく体制を作ってしまった我々は、いまそれを正すべき時期にあるのだ。

駅で別れる時、色々と考えてうつむいていたオレの背中にちょっと触れて「背筋伸ばした方がいいよ。日本に帰ってきて思った。皆、背中を丸めてる。ニューヨークのイケてるビジネスマンは背筋を伸ばして歩くもんだ」とK氏の兄が言った。握手して別れた後、オレは背筋を伸ばして家に向かった。

オレに出来ることは微力だが、彼等の思いを世の中に伝えること、それぐらいは手伝わせて欲しい。

出版が志ならば、この思いを形にしたい。