仕事と晩飯とその他

日記です。

ジャンル・形態・読者対象、出版社別ではない「分類」の可能性

トーハン/書店店頭にWEBマンガアプリ棚を新設|流通ニュース

書店店頭にwebマンガアプリ棚を新設する施策がスタート

要は、「Web発の漫画の単行本が増えたが、(読者が)店頭で探しにくいので、まとめて展開することにした」というお話。

「Webは無料でマネタイズは紙の本の出版」というのは以前からよくある手法で珍しくもない。懐かしい『電車男』とかもそうだし、数多く刊行されたブログ本も、ケータイ小説もその流れ。最近でも{Twitter発」とか。ボーデジタルのコンテンツのマネタイズとして「(紙の本の)出版」は王道とも言える。

今回のこれはコミックだが、上述のブログ本やケータイ小説とは少し事情が異なるように思う。「雑誌に連載して単行本化」が、「Webに連載して単行本化」に置き換わりそうな勢いだ。すぐにではないかもしれないが。

そうした「電子書籍」的な話は得意な人がいると思うのでそれとして。



自分は、「出版社別ではないくくり方」の可能性が気になる。

漫画に限らず書店の商品管理において「出版社別」というのは案外便利な方法だ。店頭での陳列はもちろんだが、在庫のチェックも売れ筋の補充も(返品も)、出版社単位でのオペレーションは割りと効率的だ。コミックや文庫・新書の場合はさらに「レーベル」という単位もある。が、あくまで出版社別の下位に位置する分類だ。出版社別の上位に位置する分類は「コミック」「雑誌」「文庫」「新書」「児童書」「学参」「文芸」「実用書」「専門書」といった、出版物の形態と大まかな対象を表すものになる。

専門書や児童書などでは出版社別ではなく、内容や読者対象によって陳列している店舗も少なくない。が、例えば「叢書」や「シリーズ」など、出版社別に陳列したほうがわかりやすいものはそうしているはず。そして、在庫チェック・補充・返品など商品管理は「出版社別」に行うことになる(常備があるとその傾向は強まる)。

コミックや文庫・新書のように既刊の点数も売上も大きく、かつ新刊の刊行点数が多いジャンルでは、「出版社別」での陳列と管理が行われている。一覧表での在庫チェックは出版社毎でなければ難しい。補充も同様。並べる順番も、一覧表での管理を前提に、出版社による分類(多くの場合は出版社が付けたコード)で並べることが多い。

その中でも特にコミックは、出版社だけでなく、雑誌=掲載誌との関連性が重要になっている。連載で読んで単行本を買うという読者は少なくない。少年・少女漫画の場合は、単行本しか買わない読者であっても「この漫画はそもそもどの雑誌に連載されているのか」は案外知られている(はず)。つまり、雑誌と連載漫画が紐付いている(但し、最近の、映画やアニメ化をきっかけに単行本が売れる漫画の場合はそもそも連載で読んでいないうえに雑誌ではなく映画やアニメと紐付いているので雑誌の名前はあまり出てこないことも多い)。

雑誌と連載漫画が結びついているというのはコミックの販売促進において非常に重要だ。書店店頭の限られた棚を奪い合う際に単体の漫画ではなく「雑誌連載」で束になれる強み。コミック雑誌の連載漫画の単行本はそこから大きなメリットを得ていた。

今回の「Web漫画の単行本化をまとめて展開」は、出版社の垣根を越えているだけでなく、「雑誌と連載漫画」に対応する「Webと連載漫画」という関係性を書店店頭に、そして多分、取次の物流に、持ち込んだことが大きい。(コミックにおいて)出版社別は雑誌別だった。それが崩れる。いや、「置き換わる」可能性が生まれている。



これはコミックだけの話ではない。

「出版社別ではない分類の可能性」は、何度も繰り返し言及されてきただけでなく、実際に試みられてきた。が、店舗でのそれが大きな流れになりきらない最大の理由は「商品管理のオペレーション」だろう。それだけでなく、例えば判型や装丁がバラバラで、むしろ探しにくい場合もあるのも理由かもしれない。

ネット書店が出てきて大きく変わったのは実はそこだ。ネット上では判型や装幀の違いは余り大きな問題にならない。また、データベース上のデータは「出版社別」ではない分類や並び替えが可能だ。ネット書店ではオペレーションの問題は無い。バックヤードと「Web画面」で商品の並び順が一致している必要はないからだ。

著者別で並び替える(抽出する)も、ジャンルや内容別で分類するのも、ネット書店では可能だ(そのための分類としてCコードがイマイチなので現物を見てひとつひとつ分類する必要があるという巨大な手間はあるものの)。

しかし、リアル書店においては、相変わらず「出版社別」のくくりから脱するのは難しいように思える。

のだが、ここへ来て最近増えてきた「セレクト型書店」では、店舗の規模が小規模であることを逆手に「アイテムを絞り込む」有効性が見直されている。セレクト型書店においてアイテムの絞り込みを出版社別に行うのはナンセンスだ(特に、コミック・文庫・新書・専門書を扱わないのであれば)。必然的に、そこでは「出版社別」以外の分類が不可欠になる。というか、その書店そのものが、ある種のカテゴリであり、並んでいる本は「その書店のカラー」という分類なのだろう。小規模書店のカラーとはそもそもそういうものなのかもしれない。

そうした、「セレクト型書店」における「カラー」も確かに分類のひとつだが、「雑誌と連載漫画」のような「マスセールスのための分類」とは少し違う。

今回の「Web漫画からの単行本をまとめて展開」は、マスセールスでの「出版社別(雑誌別)とは違う分類」の提案になる。取次(トーハン)もそれに乗るということだ。今後、他のジャンルなどで似たような展開が行われるかどうかが気になる。