仕事と晩飯とその他

日記です。

連載:出版不況の原因は何か(第12回)

 本日は読者が薦める本について考えてみます。

3.初めて読んだ本はどれも皆とても新しい
 「岩波文庫の100冊」の販促用で「私が選ぶ岩波文庫の3冊」というような小冊子がありました(タイトルはうろ覚えです)。その頃、本屋でアルバイトをしていたんですが、それこそ飛ぶように減っていったのを覚えています。文筆関係に限らず各界の著名人が岩波文庫の中からお気に入りの三冊をお薦めするという内容でした。皆さん思い入れたっぷりに本を紹介されていましたが、岩波文庫なので当然のごとく古典が多かったようです。
 書評を書く作家や評論家・編集者も仕事だから新刊を読んで評を書いているわけで本当に推薦する本を選んでくださいと言われたら新刊は選ばないのかもしれません。出版業界にしがらみのない自由な意見が新刊ではなく長く売れ続ける定番のロングセラーに偏っていくのはある意味必然でしょう。
 オンライン書店やネットでの「書評」やコメント、リコメンドによってロングセラーは息を吹き返しつつあります。読者による厳しい選別の可能性という意味ではロングセラーが再び陽の目を浴びるのは明るい話題かもしれません。そして、どんな有名な本であったとしても初めて読む人にはそれはある意味、とても新しいものです。
 ところが、ここが重要なポイントですが、そういう本は図書館にも古本屋にも既に潤沢にあります。どころか、もうネットで無償で読めるものまである。
 今の出版業界が負けそうになっている強大な相手は、ネットでもテレビでもゲームでもなく(いや、もちろんネットもテレビもゲームも限りある時間を奪い合うという点において競合していることはまったく否定しませんが)、自分たちも築き上げることに参加していた過去の定番書籍や古典という大いなる遺産なのです。強敵です。
 そりゃもっと工夫がなけりゃ売れなくもなりますよ。出版社で働いている人間だって古典や定番をちゃんと読んでおかねばなと思うことは多々あるはずです。その時、新刊書店を回りますか、古本で買いますか、図書館で借りますか、オンライン書店でクリック? それともパブリックドメインのテキストを検索? 要はそういうことだと思います。

 明日は「書店から消えたロングセラー」です。
(第13回に続く)