仕事と晩飯とその他

日記です。

連載:出版不況の原因は何か(第11回)

本日から出張なので明日の分もアップしておきます。

2.誰が何をおすすめするのか(書評からクチコミへ)
 刷部数も広告予算も少ない小出版社にとって新聞や雑誌での書評は生命線でした。新聞書評で増刷何万とか、昔の話です。今の何かと似ています。そうですね、読書系の「アルファブロガー(もしかすると既に死語?)」での紹介とよく似ています。
 それにやや遡るオンライン書店の登場は、本を選ぶという高度な思考作業の一部をITが肩代わりしてくれる(かも)という時代の幕開けでした。新聞の書評は新刊しか取り上げません(でした)が、オンライン書店のおすすめや熱いコメントの対象には長く売れ続けているロングセラーも含まれます。アルファブロガーも新刊だけを取り上げるわけではありません。徐々に風向きが変わってきました。
 新聞や雑誌の書評の多くは作家や評論家、編集者などによって書かれています。いわば出版業界の内側です。評者にそんな意図がなくとも、新刊を紹介することで川上、つまり出版社が売りたい本という意向を反映していると言えなくもありません。
 アルファブロガーによる独自の視点での論考や書店員による思い入れたっぷりの手書きPOPに求められたのは読者=読み手の視点でした。出版社が売りたい本ではなく、読み手が面白いと思える本、お仕着せではないストレートな思い。そこへの共感が売上に影響を及ぼします。
 従来もクチコミはありました。ベストセラーとなった例もあります。小さな評判は立ち上がっては消えてを繰り返していました。クチコミはあくまで一過性のものだった。
 インターネットの登場によってクチコミが様々な形で固定され蓄積されるようになりました。一時的な大きな流れになることもありますが、より重要なのは評判が時間をかけて蓄積されることが可能になったという点です。しかもそれは従来の一方通行のものではなく、ある種の双方向性を持っています(双方向性に乗れている出版社はまだまだ少ないのが現実ですが)。そこでおすすめされる本は今までの「書評」で取り上げられるものと同じものでしょうか。
 出版社が売りたい本と読み手が評価する本に生まれつつある乖離に多くの出版社は気がつき始めています。売りたい気持ちと読みたい気持ちのミスマッチ、かなり深刻です。

 では一体何がおすすめされているのか、明日はそれを考えてみます。
(第12回に続く)