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日記です。

連載:出版不況の原因は何か(第10回)

 本の選び方の変化は読者による選別の始まりでもあります。非常に重要なポイントです。
 本のよしあしを見極めるのは今も昔も大変な作業です。昔のヒトはとりあえず古典を読むよう薦めていました。常に最新の情報や価値観が必要なジャンルを除けば、長い年月をかけて取捨選択された古典を読むことは無価値ではないでしょう。さすがに古典を原文のまま読むのは使われている語句や文章の問題もあり、ハードルが高い。なので、新しく訳されたものが売れているのは納得です。
 もしかすると、特定のジャンルや作者を除けば、新しい本なんてさほど求められていないのかもしれません。少なくとも多くの読者にとっては。
 続けてもう少し具体的に考えてみます。

1.並んでいたから買った
 本のよしあしを見極める作業が非常に難しいのは読者にとっても書店にとっても出版社にとっても、多分、著者にとっても、まったく同じです。選ぶのが難しいとなると、とりあえず店に並んでいるものを買う、というのは妥当な線かと思います。
 出版社の販売促進のかなり大きな労力は「書店に並べること」に注ぎこまれます。並べりゃある程度なんとかなる、はずでした。(書店に並ばない本としての学校採用や図書館採用、高額書籍の外商などの変化については今回は触れません。)
 書店に本を並べるシステムは時間をかけて作り上げられたものです。新刊委託も返品フリー入帳も本を並べるための手段です。もちろん出版社の営業も。広告ですら、読者向けではなく(本を並べてくれる)書店向けの広告という発想があります。
 極端な話、そこには読者のニーズは不在です。ですが、それでもうまく回っていました。書店に本が並ぶことによってニーズが生み出されていたという面もあるのかもしれません。
 どの時代も読者は値段にも品揃えにも内容にも不満を抱えていますが、その不満を解決するためのチャネルは従来は存在していませんでした。
 CVS新古書店、図書館の貸出率の向上、オンライン書店電子書籍の誕生などは、従来の書店とそこに並んでいる本に不満を持っていた層のニーズと呼応しています。それに気がついた書店側も今、読者のニーズに応えようと方向を変え始めていますが、間に合うかどうかは自分にはわかりません。

 明日は読者が本をより積極的に選び始めた現状を考えてみます。
(第11回に続く)